元通りになんてできない
えっ?
いきなり伸びて来た手に知里を奪われた。
えっ、何?怖い、何?
「ちょ、ちょっと!止めてください!」
「俺です俺ですよ、落ち着いて、鷹山さん」
「こ、幸元君…。どうしたの?ビックリするじゃない…」
「…シーッ。とにかく降りましょう、この駅でしょ?」
「あ、大変。そう、降りなきゃ」
「どうしたの?幸元君」
私達は駅を出て、歩いている。知里は余程居心地が良いのだろう。
幸元君がしっかり抱いている腕の中で、スヤスヤ眠っている。
あ、駄目だ…、泣きそう…。
「鷹山さん?どうしたんです?」
眼に涙が一杯溜まっている。
今にもこぼれ落ちそうだ。
鷹山さん……。
「鷹山さん?大丈夫ですか?」
首をブンブン振る。すぐ声を出したら泣きそうだから。
「…はぁ、な、なんでもないの、ごめんね、ごめんなさい。あ、もう、着いたから、大丈夫。
知里を、こっちにもらいます」
鷹山さんは受け取ろうと両手を出す。俺は首を振った。
「起きたら可哀相だ。…ぐっすり寝てるから」
「でも………」
黙っていても、どうにかなるもんじゃない…。
「ごめん、…部屋に、…知里を寝かせるから…。開けるから運んでもらっていい?」
「…勿論、大丈夫です」