元通りになんてできない
部屋、古くて恥ずかしいけど…。
「…入ってもらっていい?。知里の布団を敷くから、ちょっと待ってね」
「……。はい」
押し入れから取り出し、急いで小さな子供用の布団を敷いた。
「ごめん、幸元君お待たせ。ここにお願い。そっとね、そ〜っと…」
幸元君はひざまずいて知里をゆっくり寝かせた。
知里に布団を掛け、胸を軽くトントン、トントンして落ち着かせた。
フゥ、このまま寝付きそうね。
幅の狭い布団の両側から、明かりも点け忘れ、眠る知里を二人で眺めていた。
「薫さん…」
え、薫さんて…。
顔を上げた私の唇に唇が重なった。
一瞬…、触れるだけの口づけ。突然奪われた。
「すみません、俺…、なんて事を。…帰ります」
慌てて玄関で靴を履き飛び出していった。
俺は…、なんて事を…。
止められなかった。本当は…抱きしめたかった。
駅で別れた。
だけど、知里ちゃんが遊び疲れてしまったから、帰るのも大変だろうと思って、急いで追いかけて、同じ電車に駆け込んだ。
乗っている車両を探して移動した。居た、見つけた。やっぱり眠っていた。駅から家までは近いのかも知れないが、意識の無い人間は重い。子供といえども、辛いだろう。あんな細い腕では。
鷹山さんが抱き上げようとするところを奪うように抱き上げた。
驚かせてしまった。一瞬でも誘拐だよな。思いもよらない事だ。
びっくりさせて、不安にさせて、悪い事をしたと思った。