元通りになんてできない
壁に並ぶドアが閉まっているところは一箇所のみ。
他はドアが開いているから空室という事だろう。
コンコンと軽くノックしてみた。
「はい、どうぞ」
鷹山さんの声だ。
「失礼します」
緊張が走った。これでは、まるで…、面接だな。
軽く見渡した。壁にはハンガーも有り、コートも掛けられる。呼び出し用だろう、電話もあった。
「お疲れ様、ここ面白いでしょ?
昔の造りを残してカフェに改装したんですって。この個室はその名残らしいの。
でも、良いわよね、凄く。“あったら使える"って思う場所よね、恋人とか。
途中から込み入った話になっても、ここに移動すれば、修羅場とか他人に見せずに話せるし。
まあ、冷静に移動出来るくらいなら修羅場にはならないか。商談にもいい場所だけどね」
「…アハハ。そうですね。ここ、場所は人から聞いて知っていましたが、利用するのは初めてなんです。本当、仕事にも使えそうですね」
コンコンコン。
「失礼します」
コーヒーが運ばれてきた。
会議をしてる気分になる。俺の分と、新しく鷹山さんの分だろう。
空いているカップをさげ、おしぼり、水と供に置かれた。
「…失礼致しました」
まるでお茶出しの社員のようにさがっていく。俺が会社員だからそういう風に見えるのか…。
取り敢えずおしぼりで手を拭き、コーヒーにミルクを入れた。
一口飲み、ほっとした。
「…自然に話すのって難しいわね」
…えっ。
「なるべく意識しないようにって、思えば思う程、難しいものね」
「……」