元通りになんてできない
「…彼女は?って聞いても大丈夫?」
「別にいいっすよ。居ないし」
「へぇ、本当?何だか意外。モテるだろうに」
「いやいや、ま〜ったく、モテないです。まあ、仕事と私とどっちが大事とか言われると、正直、返しに困るし」
「それで駄目になったの?言われた事あるのね?
その質問はよく聞く話よね〜。比べられるモノじゃないから、その質問はされても困るよね。
でもね、そう聞きたい時の、女の子の気持ちは解ってあげないとね?」
「鷹山さん、鷹山さんは…」
「何?」
「言ったことありますか?」
「無い無い。男の人は、仕事優先で当たり前だと思ってるから。私はね、そういうのに限らず、可愛らしい事も言えないのよ。
それにね、仕事頑張ってる人、好きなのよね。なんかね、邪魔したくないっていうか、好きにして欲しいと思っちゃう。反対に、そうじゃない人は嫌かも。
でもね、仕事の忙しさを嘘の理由に利用する人は、最初から問題外だけどね」
「…なる程」
「うわ、ごめんね。話が長くなっちゃって。幸元君に残業させてしまうところだった」
「大丈夫ですよ、遅くなりそうだったら適当に切り上げますから。こうして少し話せたから、また仕事頑張れます」
「そう?じゃあ、私はそろそろ…、ごめんね」
「あ、すいません、お迎えですよね、娘さんの」
「そう。保育所、延長頼んであるから大丈夫なんだけど。今日は買い物にも寄らないといけなくて。じゃあ、お疲れ様です」
軽く手を振られたから、俺もつられて振ってしまた。
お疲れ様でした…、鷹山さん。
何だか急に現実に引き戻された気分になった。
お迎えに行って、仲良く手を繋いで買い物するんだろうな〜…。晩御飯、何作るんだろう。
お帰りなさい、って鷹山さんに言われたらいいだろうな。…俺は…他人の奧さんなのに。
現実になり得ない事を、願望を含め、漠然と思っていた。