元通りになんてできない
「薫さん、元気そうだね。知里も随分しっかりして来たようだ」
「はい、お義父さん。
食べ物の好き嫌いはありませんし、最近はかなり食べるようになりました。話も…、しっかり出来るようにも」
「そうかい、そうかい」
お義父さんは、キッズルームでお義母さんと遊ぶ知里を見て目を細めていた。
お義父さんにとってもたった一人の孫…。
「薫さん、わしらもいつまでも元気でいられる訳じゃない。
当然知里よりも、わしもばあさんも先に死んでしまう。だから、後はまた、薫さんに見て欲しいと思っているんだ。
随分、勝手な言い分だと思う。取り上げておいて…。
薫さんには、籍はこのまま鷹山でいて欲しいと思っているんだが、いいかな?」
「はい」
「来年の4月、どうだろう。
信次朗は親不孝な息子だ…。親より先に死ぬなんてな…」
4月…、あと半年も無い…。
ずっと一緒に暮らしていて、ある日を境に、はいそれでは、なんて出来るだろうか…。
それとも、もう、私とは一緒にいられなくなる事を話しておいて暮らした方がいいのか…。信君は遠くに居ると言っておいて。今度は私まで…離れてしまう。
知里の心は大丈夫なんだろうか。
知里の誕生日に合わせた御馳走も喉を通らなかった。
…味も解らなかった。