元通りになんてできない
実は…


「すみません、遅くなりました」

「あ、鷹山さん、お疲れ様でした。大丈夫ですよ、延長の連絡きちんと頂いてましたから。
知里ちゃ〜ん、お母さん来たよ〜」

「は〜い」

「知里、ごめんねぇ、遅くなって。さあ、靴履こうか」

「うん」

自分で履きたがる知里の気持ちを優先して、時間がかかっても履けるまで待つことにしている。

「はけたよ」

「じゃあ、帰ろうか」

「せんせい、さようなら」

「はい、さようなら、また明日ね」

「明日も宜しくお願いします、さようなら」



「ねえ、知里?今日は何食べたい?」

「んとね。ひじきー」

「ひじき好きよね」

「うん!かぼちゃも」

「そうか、じゃあ、スーパーに行こう」

「うん」

使ったらなくなるから南瓜も買っとかなくちゃ。荷物、重くなるな〜…。
手を繋ぎ、小さい声で歌を一緒に歌いながら歩いた。



「もう決まった?」

「…」

お菓子の棚の前でしゃがんで悩んでいる。

「知里?一個だけ、決まった?」

「…うんとね、…うんとね、…これにする!」

「はい、じゃあ、カゴに入れてください」

「はい」

買い物に来た時、あれもこれもと駄々をこねる子を結婚前から見ていたので、自分の子供には何か決め事を作っておこうと思っていた。娘と約束したことがこれだ。
“一個だけね”という約束。
悩む時間は気長に待たなければいけないが、子供なりにちゃんと守っている。
< 8 / 191 >

この作品をシェア

pagetop