元通りになんてできない
実は…
「すみません、遅くなりました」
「あ、鷹山さん、お疲れ様でした。大丈夫ですよ、延長の連絡きちんと頂いてましたから。
知里ちゃ〜ん、お母さん来たよ〜」
「は〜い」
「知里、ごめんねぇ、遅くなって。さあ、靴履こうか」
「うん」
自分で履きたがる知里の気持ちを優先して、時間がかかっても履けるまで待つことにしている。
「はけたよ」
「じゃあ、帰ろうか」
「せんせい、さようなら」
「はい、さようなら、また明日ね」
「明日も宜しくお願いします、さようなら」
「ねえ、知里?今日は何食べたい?」
「んとね。ひじきー」
「ひじき好きよね」
「うん!かぼちゃも」
「そうか、じゃあ、スーパーに行こう」
「うん」
使ったらなくなるから南瓜も買っとかなくちゃ。荷物、重くなるな〜…。
手を繋ぎ、小さい声で歌を一緒に歌いながら歩いた。
「もう決まった?」
「…」
お菓子の棚の前でしゃがんで悩んでいる。
「知里?一個だけ、決まった?」
「…うんとね、…うんとね、…これにする!」
「はい、じゃあ、カゴに入れてください」
「はい」
買い物に来た時、あれもこれもと駄々をこねる子を結婚前から見ていたので、自分の子供には何か決め事を作っておこうと思っていた。娘と約束したことがこれだ。
“一個だけね”という約束。
悩む時間は気長に待たなければいけないが、子供なりにちゃんと守っている。