元通りになんてできない

?…、…!!、そうか、だからだ…。
知里が青が好きだと言った事を思い出した。
誕生日のプレゼント。何色のリボンがいいか尋ねられて、青がいいと言ったこと。

随分前になるけど、動物園に行った。幸元君と知里はとても仲良くなった。
一緒に遊んでくれるお兄ちゃんの事を、子供は好きになるものだ。
あの日、幸元君は青いシャツを着ていた。
この桔梗の花のような深いブルーのシャツだった…。
だから知里は青が好きになったのだ。
この子の中に、幸元君は記憶されてる。

青い桔梗の前に立つ知里。
着ている上着の赤と鮮やかなコントラストになった。

「…そうね、猛君は青いお洋服着てたね。さあ、手、洗おう」

「うん」

袖を捲りあげた。

「冷たい?」

「つめたくな〜い」

はい、タオルを出して拭いた。

「こんどはあっちいこう、おかあさん。てんとうむし、あっち」

「解ったから、そんなに引っ張らなくても、…よし、行こう」

「いこう」


私達は森のような木の群生を目指して駆けた。
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