元通りになんてできない
私と信君が結婚したのは今から八年前。
娘の知里が生まれたのは三年前、27歳の時だ。
結婚しても暫くは二人で居たかったから、私が望んだ事だったけど、信君も賛成だった。
結婚しても変わらず、私は、夫、信次朗の事を信君と呼んでいた。
子供が出来ると、子供に併せて、互いをママ、パパ、お母さん、お父さんと呼ぶ夫婦も多いと思うが、私はそれが好きじゃなかったし、理屈としておかしい呼び方だから、最初から呼ぶ事も無かった。
私は子供のお母さんだけど、夫のお母さんじゃないから。当たり前だ。
お母さんて呼んだら、返事なんかしてあげないと思っていた。
…お母さんなんて呼ばれたら、…寂しいから。
「さあ、手を洗って。出来た?じゃあブクブクパアもしよう」
「できたぁ」
「オシッコは?ない?」
「な〜い」
「じゃあ、お母さんすぐご飯作るから、知里の好きなご本、見ててくれる?」
「は〜い」
さあ…、やりますか。
エプロンをつけ、予め火を通して冷凍してある南瓜と人参を煮る。
小さい鍋で、戻したひじき、油揚げ、蓮根を煮る。
挽き肉を取り出し、玉葱と調味料を合わせ焼売を作る。
予約時間に炊き上がった炊飯器が、聞き慣れたメロディーを奏で始めた。
お茶碗にご飯を盛り、冷ましておく。
出来た南瓜を盛りテーブルへ。
「知里?熱いから、アチチだから、まだ触っちゃだめよ?」
「はい」
南瓜と交代に蒸していた焼売も出来たようだ。
「知里、ご本を片付けてください」
「はい」
「お箸を置くのを手伝ってくださ〜い」
知里が並べて置く。
ひじきと焼売を置き、ご飯とほうじ茶を置いた。ふぅ。出来た。毎回何かに急き立てられてるみたいなっちゃって…。
「有り難う。さあ、食べよう?頂きます」
「いただきます」
二人で手を合わせた。