愛が溢れてる
「さてと。オレ、今日は茶器当番だから。お湯の準備して来ちゃうね」

「あ、はい」

「くつろいでたのに邪魔してごめんね?時間までゆっくりしてて」

「いえいえ。行ってらっしゃい」


愛実ちゃんに見送られて給湯室へと旅立ち、先客の、別部署の女性社員さんと和やかに挨拶とちょっとした世間話を交わした後、超特急で用事を済ませ、部屋へと戻った。


「ただい…」


しかし、ドアを開けるやいなやその光景が目に飛び込んで来て、思わずギョッとする。


「えっ?ど、どうしたの愛実ちゃん!?」


『喜』と『楽』以外の表情をめったに見せない彼女にしては珍しく、これでもかとばかりに顔をしかめ、右目を両手で押さえながら、椅子からヨロヨロと立ち上がる所だった。


一瞬『独眼竜政宗の役作り!?』と思ったのだけれど、冷静に考えて、一般のOLである彼女にそんな役柄のオファーが舞い込む訳などなく。


「目に、ゴミが入ってしまって…」


オレが下らない事を考えている間に愛実ちゃんが弱々しい声で真相を告げた。


「なのでちょっと、目を洗って来ま…」「えー。た、たいへんだ!」


オレはそう叫びながら小走りでカウンターに近付くと、ポットとやかんを放り投げるようにして乱暴に置いた。
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