愛が溢れてる
次いで自分のデスクまでマッハで移動すると、ミネラルウォーターのボトルをかっさらって愛実ちゃんの元へと急いだ。


「座って!」

「え?」

「そんな状態で水道のある所まで移動するの大変でしょ?ここで洗っちゃおう!」


言いながら、ボトルの蓋を開ける。


「あ。これ、まだ口付けてないから。汚くないから、大丈夫だからね」

「え、えと…」


オレの勢いに圧されるようにして、ストン、と椅子に腰かけた愛実ちゃんは、今度は困惑の表情でこちらを見上げて来た。


その間に、ジャケットのポッケからタオルハンカチを取り出し、愛実ちゃんの顔の前に掲げてスタンバイする。


「目、開けて」

「は、はい…」


ここまで来たらもう逃げられないと思ったのか、観念したようにそう呟き、彼女は右目から手を離すと、恐る恐る、という感じで瞼を開いた。


『涙が溢れているその瞳は、いつも以上にキラキラと輝いていて、とても綺麗だった』


と、小さい頃親戚の集まりで従姉に見せてもらった少女マンガチックなナレーションを挟んだところで、いざ治療。


「んー?パッと見、何も入ってなさそうだけど…」


すでに涙で流れ落ちたのかもしれない。


念のため、と思い、ハンカチを頬にあてながら、ボトルを傾けて愛実ちゃんの目の中にチョロチョロ、と水を流し込む。
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