愛が溢れてる
「うっ」


彼女が条件反射的に瞳を閉じるのと同時に、その水が溢れ出した。


それを素早くハンカチで吸い取らせたあと、次の行動を指示する。


「目、開いて、そ~っと瞬きしてみて?」


愛実ちゃんが言われた通りに、これが自分に与えられた使命とばかりに、すこぶる真剣な表情で両目をゆっくり閉じて開いてみせた。


「どう?」

「あ…だ、大丈夫みたいです」


愛実ちゃんはホッとしたような表情でオレに視線を合わせながらそう返答する。


「ありがとうございました」

「いえいえ、どういたしまして」


オレも心の中で胸を撫で下ろしつつ彼女から離れた。


「ゴミって、一体何だったの?」


ハンカチをデスクの上に置き、ボトルの蓋を閉めながら、先ほどから大いに気になっていたことを尋ねてみた。


「クッキーのカケラです…」

「クッキー!?」

「はい」


愛実ちゃんはデスクの上の、食べきりサイズの当該お菓子の袋を指差した。


「颯さんが来るまで、これをつまみながら編み物の本を眺めていたのですが…」

「うん。愛実ちゃんの毎朝の日課だもんね」

「颯さんが給湯室に行ったあと、私もそろそろ歯を磨いてこようと思い、その前にこれを片付けてしまおうと、袋の中に手を突っ込んだのですが、一向にクッキーちゃんを探しあてられなくて」

「うん」
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