BEAST POLICEⅢ

男は30歳前後、スラリとした体つきで、スリムのジーンズに白いシャツと黒革のジャケットと、服装はごく普通。

気になるのは手ぶらという点。

手荷物やガイドブックを持っていないので、観光客ではなさそうだ。

（ちょっかいを出してみるか）

巽はゆっくり歩いて、距離をジリジリと詰めていく。

カエルの噴水を越えた辺りで、相手も巽に気付いたようだ。

彼の目を、じっと見返してくる。

その目に警戒や恐怖の色はなかった。

敵意や反発も感じられない。

表情の読めない洞窟のような眼差しだ。

10メートルを切る距離にまで巽が動いた所で、男が動いた。

ダラリと下げっ放しだった右手を持ち上げ、口元へ持っていくと、軽く窄めた唇にくっつけたり離したりし始めたのだ。