白雪と福嶋のきょり

「好きではない人とは付き合えません」

何よりもその遠くの喧騒に僅かに埋もれる声は、自分でも少しくぐもっているのが分かる。

放った矢の鋭さが意思とは関係なく勝手に和らいで響く感覚だった。

敢えてこの時と場所を選んだ上級生は、元々此方の回答に期待などしていなかったのだろう。

「それは…これからも私には可能性がないって、事?」

それでも、先程までは随分と赤らんでいた彼女の顔色は、今はその色を無くし霞に消えてしまいそうだ。

「はい」
「誰か他に好きな人…いるの?」
「はい」

揃えられた前髪に無理やり隠れていく目に涙が浮かび始めていくのが見えて。

それを必死に堪えようと居場所を求め彷徨う両手が小さくなっていく。

気付かれない様、鼻から薄く息を吐いた。
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