白雪と福嶋のきょり

「…」

古い空気が滞る謎の空間に一人残され、もう一度鼻から薄く息をついた。

その息と古い空気が風もないのに混ざり合った気がした。

すぐに上級生とは正反対の方向へと脚を動かした。

何か込もった感情は特になく、脚を動かすきっかけとしての息。

もう癖になりつつある。

「おっ福嶋まーただってな!けっこうかわいかったって聞いたぜー?」

喧騒で溢れる廊下へと向かい初めに教室から出てきた男子と階段で顔を合わせると、そいつは態々脚を止めてまでからかってきた。

直接呼び出されるとこういう事が続くから苦手だ。

「よー女泣かせ!」
「…」
「ちょいちょいちょい!無視はやめろって!すげーカッコわりーだろーが。」

妙に興奮するそいつの横を通り過ぎた後も、何度も足を止めさせられ。

自分のクラスまでの距離が異様に長い。

「今年何人目だよ。記録更新すんじゃねーの?羨ましいねぇ。」

呼び出された事はまだ十数分しか経っていないにも関わらず、既に学年中に伝わっている様で。

男子からはからかわれ、女子には何とも言えない視線と聞き取れない会話を向けられる。

「またフったんだろー?もったいね!」

慣れた事とは言え、出来ればこれ以上体験したくないと思うのだが。

それは彼方次第であり、此方には拒否権どころか選択権すら与えられていない。
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