白雪と福嶋のきょり

「福嶋。」

また数歩歩いた所で捕まっていると、前方から一つだけ大人びた声が喧騒の中から俺の鼓膜を静謐に叩いた。

「はい」
「さぼった罰だ。仕事手伝え。」

大人びたというより年上なのだから静謐な大人の声と表現するのが正しい。

友人の後ろですらりと伸びる身体が立ち止まり、眼鏡で隠された慧眼が程良い力加減で此方のそれを捉えた。

「うげっはるかちゃん鬼!じゃなっ福嶋ドンマイ!」

担任の東雲が俺へ言い渡した罰に、何故かそいつが苦虫を噛み潰し誤飲した様な顔をして。

その至極後味の悪い不快さだけを残し足早に去っていった。

「行くぞ。」
「はい」

東雲の程良く伸びた背中を追って、今し方何度も足を止めながら歩いてきた方へと踵を返す。

この短時間で学年中に伝わっているという事は、さぼった理由は生徒間で飛び交う噂────というよりは本人達の意思もプライバシーもない”楽しい話題”だった筈だ。
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