白雪と福嶋のきょり
橙の帯が容赦なく横切る渡り廊下を東雲の後ろについて歩き、人影の疎らな北校舎へと入った。

部室が並ぶ一、三階と違い移動教室ばかりが並ぶ二階は、随分と静まり返っていた。

東雲と自分の足音だけが妙に響き、渡り廊下向こうの喧騒が遥か遠くにある様で。

一瞥した東校舎の廊下が、すでに閉められた窓でぼやけた。

「臨時会議があるから先にはじめててくれ。」
「はい」

真新しいプレートの真下の扉を東雲が施錠し、ぱちぱちと音を立てて明るくなったその部屋の奥に、罰の対価が見えた。

コピー機の横に置かれていた夥しい紙の数はどう努力しても一、二時間では終わらない量で。

真っ白な紙が作る山が目の前でこれでもかと屹立している。

「ここは使うこの後に生徒がいる。やり辛いなら移動してもいいから。」

その山の上にある一つだけ完成された冊子には”修学旅行レポート”と書かれた表題の下に、何とも愛着のある生物のイラストが書かれていて。


鯨と…ヤンバルクイナだろうか。

普通この手のイラストはパソコンかカタログのそれを貼り付けコピーされる筈だが。


何故か手書きの彼らは、歪な型でなぞられたかの様な姿で不気味に笑っている。
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