白雪と福嶋のきょり
二つのホッチキスが動く音は途切れる事なく、緩やかな会話の隙間から秒針と共鳴しながら静かに響く。

「御蔭様で」
「そこまで、しか聞かないけどね」

野球部は休憩に入ったのだろうか。籠った掛け声も遠くまで通り抜ける様な音も聞こえてこない。

ただ業務的にかちりかちりと音が続く。

「告白されたからって付き合わねえよ」

手元を見ながらの会話では白雪がどんな表情をしているのかは分からない。

けれど恐らく、俺の方を真っ直ぐに見て開花させているのだろう。

「さすが福嶋」

恋愛感情としては特に意味のない、ただ白雪にしか捉えられない程の些細な何かに喜んで。


「わ」

と、黒板横に設置された乳白色の内線が緩やかな空気を鋭利な高音で裂いた。

立ち上がろうとした白雪を制止しけたたましく鳴るそれの受話器を取る。

相手は東雲だった。

教室にいるのかの確認だろうと大凡の当たりを付けていたが。

《どこまで進んだっ》
「半分を切ったところです」
《中止だっ!》
「は?」


その答えは随分と外れたものだった。
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