白雪と福嶋のきょり
生徒の姿はないが個人旅行で来ている一般人が疎らに設置されたテーブルを埋める横の売店は、三味線の音色だけが収録されたCDがその土地らしさを懸命に醸し出そうとしていた。

「コーンアイス一つお願いします」
「あー…お味はどれになさいますかー」

けれど紺青色の羽織に袖を通す店員が窮屈そうに動く売店は、至極簡易的なコンビニで。

羽織も三味線も明る過ぎる照明の下では馴染めずに浮き出てしまっている。

「紅芋でお願いします」

そんな空間に居心地があまり良くない俺の横では、白雪が店員に向かって例の仕草で微笑を放っていて。

「は、はい…お待ちください。」

それに見事射止められた目尻に深い皺を蓄えた店員の顔が、糸が弾け切れた様にだらしなく緩んでいく。

白雪の手に渡された真紅色のアイスが、誇張して撮影された写真よりも大きく見えるのは、錯覚ではない。
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