白雪と福嶋のきょり
「あんなにいつも沢山の人に囲まれてるのに、すごく周りを見てるんだね。」
「違うな」
「え。」

自分の意見を否定された彼の顔が、驚きの表面を微細の怯えで纏う。

自分の全てに自信がなく、相手の反応に自分の全てを支配される顔だ。

「白雪が自然にそう言えるのは、あいつが鈍感だからだ」

それを分かりながら声のトーンも水を持ったままの手も、何も変えない俺は白雪とは真逆だ。

「相手がどう言われたいどうされたい。そういう雰囲気を掴めないあいつは、自分が思ってる事をただ言ってるだけだ」

けれど、此方側は真逆でも彼方側からすれば、白雪と俺はさして変わらない様に受け取られる。

無自覚の手と自覚あるの手。どちらにせよ下心がないのは同じだから。

「それって良い事だよね?」
「当たればな。下心なしに言うんだから出目が当たれば救いになる」

怯えるサカキの顔が元に戻り、質問してくるのがその証拠だ。

「でも出目には悪い方だってあるだろ」
「あ…。」

彼が零したまだ小さい声が、波の音と優しく混じった。サカキはとても素直だ。

「昔よりはマシになった方だ」

きっかけさえあれば人に好かれやすい奴なんだろうと思う脳が、幼い頃の白雪を回視する脳と反発せずに脳を漂う。

混沌としない、どちらも優しい思考だ。

「…僕、福嶋くんと白雪さんって何をしても認められる人だと思ってた。」
「そんな奴いねえよ」
「そうだよね…。」

風が少し強く吹き始め、肌を滑る様に部屋へと入り込んできた。

心地良いが砂も入り込んできそうだったので窓を閉めた。
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