白雪と福嶋のきょり
その時に、ジャストタイミングではるか先生の携帯が鳴って。

こちらから目を逸らして立ち上がった福嶋の背中を、惚けながら眺めた。

「白雪、いくぞ」
「う、うん」

私がまだ少し惚けたまま福嶋を追いかけてはるかちゃんのいる場所へと駆け寄ると。

「成功したってよ。」

全てのカップルが揃った後、私は気付かなかったスタート地点で丘を隠していた幕が外されて。

新任の先生の携帯と繋がったままのはるか先生の携帯の向こうから、みんなの感嘆や歓声が聞こえてきた。

先生たちの高らかな弾んだ声も一緒に聞こえてくる。

はるか先生の言う通り、サプライズ肝試しは成功。と言うより大成功。

後は、みんなが戻った後にこの柔らかな灯りを消してしまうと、イベントが終わる。

終わってしまうのは淋しいけれど、カメラで撮影したり生意気に先生を褒めて軽く怒られたり。

賑やかで明るい喧騒が聞こえてくるのはとても嬉しくて。

「よかったですね」

はるか先生にそう言った後、横にいる福嶋にも同じ言葉を放とうとしたのに。

「あ、」
「良かったな」

こちらを見て表情の端を少しだけ弛める福嶋の顔を見た瞬間に、うまく言葉が出てこなくなってしまった。
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