恋の六法全書~姫は王子のキスで~
「あっちゃー……」
雑誌を読んでいた途中。飲んでいた水を結構な範囲で、ページに向かって溢してしまった。こういう場合、水分を拭き取っても、よれは残る。
二十四年間の人生でついた知恵。こういうしわに対しては、上から重たいもので押さえつけてやればいい。
この家にある、重たいもの。それは夫の求(もとむ)くんの部屋にあるはず。彼の職業ならではのもの。
「お邪魔しまーす……」
一人きりでいる、分譲マンションの一室。私は恐る恐る、求くんの部屋の、レバータイプのドアノブを捻った。夫の部屋に勝手に入ることに罪悪感が湧く妻は、私の他にもいるのだろうか。
部屋の掃除は自分でやるからいいと言われた。でも、決して立ち入るなと言われてはいない。ただ、相手のプライバシーを尊重し、入ろうとはしないだけ。
几帳面な求くんの部屋はすっきりと片付いていた。落ち着いた部屋に合うように、隅に電子ピアノが置いてある。
求くんに対し、いいなと思うところは、たくさんある。
ピアノが弾けるところ、大学在学中に司法試験に合格したところ。小さな頃からの夢を実現させ、弁護士として今働いているところ。
いいなと思う部分は、好きだと思う部分に直結する。
だけど、求くんを好きな理由は、あまり考えないようにしてる。理由を見つけるようとしている段階で、無理して相手を好きになろうとしているように思えるから。