恋の六法全書~姫は王子のキスで~
私は求くんの部屋から持ち出した六法全書を、よれた雑誌の上に置いた。
分厚い書物の代表格である六法全書の威力は凄まじく、端から見る限りでは、一気にページのしわが真っ直ぐになっている。
その時、カチャリと、玄関の鍵の開閉音が聞こえた。
求くんが仕事から帰ってきた。いつもはこのままリビングで、求くんがここにやって来るのを待ってたけど、今日からは玄関の前に立とう。
あのアニメの主人公は、夫が帰宅した際は、玄関まで迎えに行っているから。それも、良き妻らしい行動に思える。
「おかえりなさい」
「ただいま……どうかした?」
普段と違って玄関まで現れた私を、求くんは怪訝そうな顔をして見ていた。求くんの着ているスーツの襟にある、ぴかぴかの弁護士バッジが輝く。
求くんのいいなと思うところは、言葉にするならまだある。その一つに、容姿が美しいところ。
卵型の輪郭に、それぞれ綺麗なかたちをした目と鼻と口が、バランスよく配置されている。いつの時間帯に見ても清潔感のある、爽やかな顔。
でも、どれだけ相手がかっこよくても、それで気持ちがときめくかと言えば、そうじゃない。
私たちはお互いを恋愛対象として見るのには、出会いが早すぎた。家族同然の付き合いを、し過ぎた。
おっと、いけない。やっぱり理由探しはよくない。まかり間違って、相手を好きにならない理由を見つけてしまいそう。
「これからは求くんが帰った時は、玄関まで出迎えることにした。それとカバン、持つね」
私はスリッパに履き替えた求くんに向かって、両手を広げる。
「え? ああ……」
求くんはすんなりと、私にビジネスバッグを差し出した。
そのまま二人で、リビングまで歩く。夫婦として、ちょっぴり距離が近づいた気がした。