恋の六法全書~姫は王子のキスで~


「あっ、晩御飯の準備をしなきゃだね。今夜はカレーだよ」


 私は空気を察し、スリッパの音を立て、システムキッチンまで向かった。テレビの音もないダイニングで、静かに二人、食事を始める。


「いつも晩御飯の度に思うんだけど、帰りが遅くなる時もあるし、先に食べててもいいよ」


 カレーを口にしながら、求くんが私の様子を窺った。


「ううん、待ってる。一緒に食事したい」


 求くんのその気遣いも嬉しいけど、私は夫婦で過ごす時間をできるだけ大切にしたいと思っている。


「……あ。それとも求くんは、仕事で疲れた後で私と一緒に食事すると、余計に疲れたりする? それだったら私、先に食事を済ませておくけど」


 求くんの言葉の真意を推測した私は、慌てて言い換えた。


「いや……。結婚したばかりなのに一緒にいて疲れるとか、そんな訳ないじゃん」


 求くんが表情を変えずに、然り気無く言葉に発する。


「うん……」


 夫らしい求くんの台詞に、日頃彼が私のことをどう思っているか未知数なだけに、胸がじんと温かくなった。


「このカレー……辛い」


 ふと、求くんがカレー皿に、静かにスプーンを置いた。
< 5 / 12 >

この作品をシェア

pagetop