恋の六法全書~姫は王子のキスで~
「あっ、晩御飯の準備をしなきゃだね。今夜はカレーだよ」
私は空気を察し、スリッパの音を立て、システムキッチンまで向かった。テレビの音もないダイニングで、静かに二人、食事を始める。
「いつも晩御飯の度に思うんだけど、帰りが遅くなる時もあるし、先に食べててもいいよ」
カレーを口にしながら、求くんが私の様子を窺った。
「ううん、待ってる。一緒に食事したい」
求くんのその気遣いも嬉しいけど、私は夫婦で過ごす時間をできるだけ大切にしたいと思っている。
「……あ。それとも求くんは、仕事で疲れた後で私と一緒に食事すると、余計に疲れたりする? それだったら私、先に食事を済ませておくけど」
求くんの言葉の真意を推測した私は、慌てて言い換えた。
「いや……。結婚したばかりなのに一緒にいて疲れるとか、そんな訳ないじゃん」
求くんが表情を変えずに、然り気無く言葉に発する。
「うん……」
夫らしい求くんの台詞に、日頃彼が私のことをどう思っているか未知数なだけに、胸がじんと温かくなった。
「このカレー……辛い」
ふと、求くんがカレー皿に、静かにスプーンを置いた。