恋の六法全書~姫は王子のキスで~


「それじゃあ俺も一緒に入るから、歩く時、俺のシャツの裾をしっかりと持って」


 求くんもその場で、裸足になりだす。


「うん」


 そんなに私って、そそっかしいのかな。私は言われたとおりに、求くんが着ているシャツの、背中の裾辺りをぎゅっと掴んだ。二人同時に足を浸けた海は、入るのを決めたのをやや後悔したくらい、冷たかった。


 先導する求くんと、踝までの深さの海の中を、そぞろ歩きをする。びゅうびゅうという風の音と、バシャバシャという二つの水音だけが聞こえる。夫婦なのに手を繋ごうと催促しないところが、実に求くんらしい。


 求くんの背中は広い。広くなった。初めて出会った時は、私より少しだけ身長がある程度だったのに、いつのまにこんなにたくましく成長したんだろう。


 目の前にいるのは、親に言われるがまま結婚をした人。だけどこの人は、父が決めた人だもの。私の結婚に、間違いはない。間違いはないんだ。
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