竜宮の御使い
0.5
強い日差しが容赦なく照りつける真夏の都内某所。取引先へ向かうタクシーの中私は外を歩く女性たちの姿を見て小さなため息をひとつこぼした。

 連日の真夏日。

うだるような熱さに女性たちのファッションはどんどん薄着になっていく。
キャミソールにノースリーブのシフォンブラウス。尻の形が丸わかりのホットパンツ。そこから伸びるのはカモシカもびっくりの細すぎる白い脚。
 
はぁ…。

 信号待ちのタクシーの前を通り過ぎる女性の姿を見て再びため息が漏れる。そして、なにげなく自分の服装に目をやった。
 真夏だと言うのに漆黒のパンツスーツ。フリルの美しい白いブラウス。その上には黒のカーディガン。

「見てるだけで暑苦しいな、梶。」

 同じ部署のイケメン同期、斎藤から開口一番に落とされた爆弾。それが心に引っかかって肉が付いて猫背の私の背中をさらに丸くした。
 
 物心ついた時にはもう私の体は他の子どもたちと違っていた。
 
標準より上回る身長。さして体重。小さなうちはそれほど気にしなかったが、成長するにつれてソレは私のコンプレックスとなっていく。
 
ダイエットもした。流行りの物から、有酸素運動まで。ほとんど試したが、その時だけ痩せてすぐにリバウンド。そしてまた太る。の繰り返し。

 気がつけば、身長170センチ、75キロと標準体重10キロオーバーになっていた。

幸い、身長があるので目立つ贅肉は誤魔化せたが、それでも薄着になるこの季節…日本女性の標準ウェストサイズと同じサイズの太ももや三段腹で妊娠8カ月の下腹。同期の女子たちの太ももと同じ太さの二の腕が悩みの種だ。
もう何年も隠し通してきたが、そろそろ限界なのかもしれない。

「○○ザップ行こうかな…。」

苦しい減量も筋トレも…多額の出費も、結果にコミットしてくれるなら…。
 
本気で入会を考えていた時突然かかった急ブレーキに身体が前につんのめった。助手席のヘッドに強かに頭を打ち付け、目の前に星が散る。

「いっ…たぁ…。」

「お客さん!逃げて!!」

痛みをこらえて頭を起こすのと同時に聞こえた運転手の声。
しかし、次の瞬間私の視界は突っ込んできた大型トラックだと思われる緑の車体のナンバーでいっぱいになった。



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