俺様男子の克服方法(短)
この間のオーナーさんが出てきたけど、今日は恭しくお辞儀した後に顔見知りの応対をしなかった。
雰囲気を感じ取ってくれたのだろう。
奥まった席に案内された。周りのお客さんは見えない。
「適当に頼むぞ」
「うん」
注文後、ワインを持って、この前のブロンド美女が来た。
正直、良い気分はしない。
またイタリア語で会話しているし。
むっとした空気を感じ取ったのか、美女が視線を送ってきた。
「ヤキモチ焼かせてしまったかしら」
「っ、違います」
「マサト、わかっててやってるのでしょう?」
「あ? なんのことだ」
「この前もあなたこの子のこと――「余計なこと言うな」
「あら、別に悪いことじゃないのに」
「この前ってあなたが顔を赤くしたことですか?」
「顔に出てたの? うっかりしてたわ。だってあなたの「だから黙れって」
その後はイタリア語で言い合っていたが、私には何を言っているのかわからなかった。
ただ時折、俺様が照れくさそうにしていたのはわかった。
悪い話じゃないみたい。
美女が折れた、というような感じで去って行った。
「ねえ、何の話?」
「教えてやらねぇ」
「そっか。とりあえず乾杯する?」
食い下がっても答えてくれなさそうだから諦めた。……フリをした。
上手く行けば食いついてくれるかも、なんて期待して。
「別にあいつを口説いたわけじゃねぇぞ」
そっぽを向いて、耳を赤くしている。
たまに見せる照れがかわいくてしょうがない。
「じゃあ、何?」
椅子から身を乗り出した俺様は手招きした。
私も身を乗り出す。
顎を掴まれて、更に顔が近づく。
至近距離で見つめられてクラクラしそう。
キスをされるのかと思って、目を瞑る。
「ぶっさいくだな」
「なっ!」
目を思いっきり開くと、大笑いしている。
あー! もー! ときめいたさっきの自分が恥ずかしい!
顎を離されて、椅子に座り直すと、俺様は眉尻を下げて穏やかに笑った。
「こんなことするのも言えるのも一生お前だけだ、みたいなこと言ったんだよ」
見たこともないような慈愛に満ちた顔で言うものだから、その顔から目が離せなくなってしまった。
好きな女には一途、私もあなた一筋
(俺様でも何でもあなたが好き)