俺様男子の克服方法(短)


「よー、今日も命令通り待ってたな。褒めてやるよ」
「それはどうも」
「何だよ。張り合いねぇな。腹減ってんだろ。メロンパン買ったら、すぐ出ようぜ」

オススメのお店があるらしい。
承諾したわけでもないのに数分後にはペースに乗せられていつの間にか電車に乗っていた。
最近はいつもこう。
私の都合なんてお構いなしに誘ってきて、断るものなら罵倒されて根負けする。
もう逆らうのも面倒になってきたわ。
なぜだか上機嫌の俺様の後ろを歩いていると、目の前に立派な洋館が建っていた。
いつも居酒屋とかバーとか、庶民にも入れそうな場所に連れていかれたことはあったけど……これは……。

「ちょっと待った。まさかここに入るの?」
「あ? そうだけど」
「普段着なんだけど」
「それなら気にするな。ここのコンセプトは普段着でも入れるイタリアンだ」
「いやいや、この外観でそれは嘘でしょ?」
「うっせーな。つべこべ言わずに行くぞ。腹減ってんだろ」

一言もお腹空いてるとは言ってないんですけど。
手首掴まれて引きずられる。
不安はあったけど、こいつが自信満々だとなぜか安心する。
俺様もジャケット着ているとはいえ、カジュアルだ。
私はジーパンだけど……。
相変わらずの傍若無人な態度に呆れながら入店すると、タキシードを着た男性が深々とお辞儀してきた。
どこがカジュアルだ!
恭しい態度のボーイさんも豪華な内装も私には縁遠いレストランだ。

「誠人様、お待ちしておりました」
「急な話で悪かったな」
「いいえ。慣れておりますから」

30代後半くらいのボーイさんにもあの口調。
信じられない。
開いた口が塞がらない私の手を掴むと堂々と歩き出す。
もう一度言っておこう。
彼は礼服ではない。

席に座ってようやく周りを見渡す余裕ができると、確かに半分ほどが普段着であった。
メニューも頑張れば手が出せる料理もある。……信じられない値段もあるけど。
私が何か言う前に俺様が勝手に注文してしまった。

< 8 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop