俺様男子の克服方法(短)
「慣れてるね」
「ああ、さっきのオーナーだけど、父親の知り合いで、まあよく来る」
「え? オーナー?」
「若いだろ」
「それもあるけど、服が……」
「変わってるよなーあの人」
他の従業員と区別をつけないため、同じタキシードを着ていた。
普段着でも入れるところといい、確かに普通ではない。
それよりも、
「もしかしてお坊ちゃん?」
「今更かよ。滲み出る気品でとっくに気づいているかと思ったぜ」
「そんなのまったく感じませんでした」
「にっぶいな」
「お金あるなら私に構わなくてもいいんじゃない?」
「は?」
「いくらでも相手してくれる女いるでしょ?」
「お前馬鹿か」
長いため息を吐いた俺様は真っ直ぐ私を見る。
「誰にでもこんなことしねぇよ。面倒だろ」
……。
ど、どういう意味だろうか。
暗に面倒だと言われているのか。
それとも口説かれて…いる……いや、まさか。
危なかった。まんまとこいつの罠にはまるとこだった。
にやけ顔の俺様をキッと睨むと肩を竦められる。
何だかわからない、というようだ。
認めたくないけど、初めて会った時より表情が柔らかくなっている。…私も。
次に何を話せばいいのか迷っていると、「失礼します」とブロンドの美女がワイン片手にやってきた。
美女は俺様にイタリア語で話しかける。
イタリア語を履修している私でも聞き取れないのに俺様は軽快に会話を進める。
美女の頬が心なしか赤くなる。
……私も落とせると思った?
思わせぶりな態度で、それらしいことを言って、笑っていれば簡単に落ちると?
馬鹿馬鹿しい。
最悪だ。
これだから自分勝手な俺様なんて……、
「ごめんなさい。用事思い出したから」
太ももに乗っているナプキンを丁寧に折り、動揺を見せず、なるべく彼を見ず、私は席を立った。