みんな、ときどきひとり





予備校が終わって外にでたときには、時計は21時を少し過ぎていた。

斜め前には水城くんたちが働いているトムボーイが見える。

なんとなく働いてるのかなぁ、なんてチラ見をするけどよく考えれば水城くんはキッチンって言っていたことを思い出した。

それなのに、タイミングよくトムボーイのドアが開いて、水城くんが出てきた。

お店をチラ見していたわたしと気まずいながらも目が合ってしまう。

「あっ。偶然!」

見ていたことに動揺して、慌てて声をだすわたしは明らかに不自然だ。

だけど彼は何も言わず、頭だけをぺこりと下げた。

一回家に帰ったのか、Tシャツにシャツを羽織り、ジーパンという私服姿だった。

「バイトだったんだ?」

「はい」

少しの沈黙が流れながらも、駅まで方向が一緒だったので、隣に並んで歩いた。

ふと私服姿の彼を見て、思い出す。

「ああ!てか、Tシャツ弁償してなかった」

「別にいらないですよ」

素っ気なく答える。

「でも、あのTシャツ捨てちゃったでしょ?」

「まあ、そうですけど」

「だよね、だよね。やっぱり弁償するよ。ごめんね」

「いや、いいですよ」と何度も断っていたけど、わたしのしつこい弁償させてコールに、水城くんは駅前で音をあげた。

「じゃあ、わかりました」

「よし約束ね」

これで、あのときの失敗はチャラ。そう思うと心は少し軽くなる。まあ、若干忘れていたのだけれど。
< 104 / 354 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop