みんな、ときどきひとり
「俺、あれから考えたんですけど。欲しいのなかったです」
「無欲な人だねぇ」
「ですね。先輩の激うまイケメンケーキでも欲しいって言えば良かったって今朝思いましたけど」
「ああああんなのお礼にならないよ!」
真顔で思いも寄らないことを言うから驚いてしまう。
「そうですか。うまかったんですけど」
そのまま通り沿いにあるファッションビルの中に入った。
彼は周りに置いてある服を手に取りながらも興味なさそうな顔をしている。
「Tシャツ見ないの?」
「はい」
「ふうん。あっ、これは?」
マネキンが被っていた黒いハットを自分の頭に乗せてみせた。
「俺が被ると思いますか」
「思いませんね」
「あっ。あれ欲しかったんだ」と、彼はなにかを思い出した。
「なに、なに?」
「よだれかけ」
「ヨダレカケ?」
思いがけない言葉に思わず訊き返してしまう。