みんな、ときどきひとり
通りを駅のほうへと引き返すと、落ち合った地点まで戻ってきた。
「あっ、トムボーイ行くよね?」
「帰ります」
「さっき、行くって言っちゃったんだけど」
「俺、約束してませんから」
「じゃあひとりで行くからいいよ」と言いながら、水城くんの持っているプレゼントをぱっと奪った。
ぷぃっとそっぽを向いてトムボーイのドアを開けた。
「いらっしゃいませ。あっ、優菜さん、修くん」
明るい挨拶とともに真理恵ちゃんが黒いワンピースに白地のフリルの着いたエプロンというウェイトレス姿で現れた。
ちょっとしたメイド喫茶みたいで可愛い。
手に人質を抱えているせいか、彼も慌てて追いかけて来た。
「来ちゃった」
「好きなとこ座っていいですよ。注文決まったら呼んで下さいねっ」と営業スマイルを見せた。
わたしと水城くんは窓際のテーブル席に向かいあって座った。
「なに食べよう?なに頼んでもいいのかな?」
テーブルの上に置いてあるメニューを見ながら独り言のように呟く。
「強引ですよ」と言って、彼はテーブルに置いてあるプレゼントを自分の座っている横に置いた。
「この前のお菓子横取りの仕返しだよ……なんて、だって、行くって言ったからひとりで来れないじゃん」
そんな言い訳を聞いていないみたいに、彼はなにも答えない。
「ごめんね」とようやく口に出た。
彼は赦す言葉を言う代わりに「このレアチーズケーキうまいですよ。冷凍のわりに」と言った。
「えっ?冷凍なの?そんな企業秘密言っていいの?」
「どこもそうなんじゃないですか。俺、もう決まりましたけど」
「えーっ。早いっ。こういうとき優柔なんだよね。どうしよう」
また、メニューにかじりついた。
それから、悩みに悩みぬいて、注文をする。