みんな、ときどきひとり
亮太がいる。
メニューを見ているのか視線を下に向けていて真正面から来たわたしには気づいていなかった。
一人でイスに座っていたから、話しかけようかと思って足を止めた。
でも今日は水城くんと一緒にいるから、また勘違いで冷やかされてしまうのも気がひけてしまう。
迷いながら、話しかけずに横を通り過ぎようとすると、亮太の後ろからグラスを2つ持った女の子がやってきた。
「コーヒーでよかった?」
そう訊いたあと、亮太の向かい側の席にその子は座った。
「うん。ありがとう」
その子にかけたはずの亮太の優しい声がわたしの耳にまで聞こえた。
タバスコを手に取って、気づかれないように背をかがめながら早足でテーブルへと戻った。
端の席で良かった。
イスに座った途端、力が抜けそうになった。
それからすぐに、水城くんが戻ってきた。
「お帰り。大丈夫だった?」
「はい」
「そう。あっ、水城くんのもきたよ。冷めちゃうから食べなよ」
わたしはこのどうしようもない気持ちを悟られないように明るい声で話した。笑顔も作った。
「はぁ」と言った、水城くんはいつもと同じだけど、わたしはちゃんと笑ってるように見えてるのかな。
誰かに聞きたくなった。