みんな、ときどきひとり
「そうですかね」
「あっ、スタイ渡してよ、ちゃんと」
「渡しときます」
十字路に差し掛かり、右に曲がると二十メートル前位に2人の小さな人影が歩いているのが見えた。
暗くなってきてはっきりと形は見えなかったが、わたしは思わず足を止めた。
それに合わせるように、水城くんも足を止める。
静まり返った住宅街には、2人の笑い声が響いていた。
その姿が一軒の家の前に止まったかと思うと、門を開けて見えなくなった。
「あそこ、先輩の家ですよね」
水城くんはわたしに気を遣ったのか少し声を低くして言った。
「うん」
そう、わたしの家の中に入っていったのだ。
「帰ってきたんだ」
無意識に呟いていた。
笑いあう人影は父と母の姿だった。
「誰がですか?」
「あっ、お父さん。単身赴任で家にいなかったから。週末帰ってくるとか聞いてたから少しびっくりして。ごめん、ボーっとしちゃったね」
水城くんの顔を見て、笑ってごまかした。
これ以上、変な態度は見せたくない。そんな気持ちがわたしを笑顔に変えた。
「ふうん」
「もう家近いし。大丈夫だよ。ありがとね」
「わかりました。じゃ」
水城くんは、背中を見せて十字路を曲がって行った。