みんな、ときどきひとり
家の前まで歩き、田口と書かれた表札の前で立ち止まった。
週末に帰ってくるって言ったはずなのに、なんで今日帰ってくるんだろう。
母もなにも言ってなかったのに。
父のいる家に帰りたくない。というより、家族がいる家に帰りたくない。
そんな気持ちがドアを開ける勇気すり減らしていく。
まるで、小学生の頃のわたしみたいだ。
父が単身赴任をする前の、4人で生活していた頃の。
あの頃も家族と空間と時間を共有することが苦手だった。
わざと寄り道して帰ったりする程。久しぶりのその空気に耐えられるだろうか。
「少し散歩でもしようかな」と心の中で呟いた。
家の近くの川沿いにある、公園に辿り着いた。
道路を挟んだ向かい側には、最近建てられたばかりのマンションがあり、ぽつぽつと部屋の明かりが漏れていた。
それを見ていると、どこの家も幸せに暮らしているように思える。
薄暗いオレンジのライトが公園の一部分だけを照らす。
わたしが落ち着く場所はきっとこっちだろう。
ライトの当たっているブランコに腰かけて一息ついた。
周りを見渡すと、不気味に感じる程の暗さだった。
ここで、誰かに襲われてわたしがいなくなったら誰か悲しんでくれるのかなぁと意味もなく思ってみたけど、それ以上は考えないようにした。
そのとき、突然、携帯の着信音が鳴って我に返った。