みんな、ときどきひとり

画面を見ると非通知と表示されている。

なにこれ。

携帯を持つ手が震えた。

心臓が速くなるのが自分でもわかった。

10秒くらい鳴ったあと、静かに電話は切れた。

恐る恐る周りを見渡しながらブランコから立ち上がる。

公園は相変わらず、人の気配も視線も感じられないくらい静かだ。

そう思っていると、また携帯の着信音が鳴り響いた。

さっきの非通知かと思い電話を開くのをためらった。

亮太。

こういうとき、意味もなく好きな人の名前を呼んでしまう。呼んだって、現れもしないのに。

ひと呼吸おく。心を落ち着かせたあと、携帯を開いた。

「もしもし」

電話の声は水城くんだった。

「水城くん」

「ちゃんと、家着きました?」

「あっ。うん」

心配して電話をくれたのだろうか。水城くんの声に少しほっとした。

だけど、葉が擦れあうような音がして、体がびくりと反応した。草むらを見ると揺れていて、まるで生き物が潜んでいるように見える。嫌な予感がした。

そのとき、黒い物体が勢いよく飛び出してわたしの足元を走り去っていく。

驚きのあまり大きな声で叫んでしまった。

「どうしたんですか?」

物体は少し歩くと止まって、こっちを振り返る。

猫だ。

一気に安堵の溜め息が漏れた。

「ご、ごめん。猫が草むらから飛び出してきてビックリしちゃって」

「先輩、今どこにいるんですか?」

「えっと、公園」

それから5分も経たずに、息を切らした水城くんが公園の前に現れた。
< 139 / 354 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop