みんな、ときどきひとり
小さい頃の記憶なんて曖昧なのに、そのときの感情だけは鮮明に覚えているから、不思議なものだ。
ほのかちゃんはぐっすり眠っている。
「さっき、寝たばかりだから、まだ起きそうにないな。ごめんね」
白い手で、優しく撫でながらお姉さんは言った。愛でてるみたいだ。
「いいえ。こっちこそ、急に来てすみませんでした」
「全然。引越してきたばっかりで友達もいないしさ。いつでも遊びにきていいから。あと、スタイありがとう。すごい可愛かった。使うね」
「選んだだけですから……修くんにはセンスないような顔されましたけど」
「大丈夫。修が一番センスないもん」と言うと、背後からまたじろりと水城くんが睨む。それに気づいても「聞いてた?」とくったくなく笑う。
その笑顔を見ると、無愛想な水城くんと同じ兄弟とは思えないくらいほんわかした可愛らしい人に感じた。
それから、少しリビングで話をしてお姉さんの家をあとにすることにした。
帰り際に、お姉さんは「修と仲良くしてやってね」とまるでお母さんが言うような言葉を言った。