みんな、ときどきひとり

自分の部屋に入り鍵をかけた。

それにしても家の壁ってこんなに薄かったけと思う程、話声が漏れて聞こえてくる。

わたしが帰ってきたことに大が気づいたのか、流していた音楽のボリュームを少し上げて余計にうるさくなった。

「お前の会話なんか聞かないよ」と壁に向かって小さく呟いた。

予備校の課題でもやろうかと思っていたのだけど、集中してやれなさそうな気がしてきた。

夕飯のお金をもらったことを思い出して外で食べながら、勉強するかと出かける準備をすることにした。

急に大の部屋の音楽がピタリと止まった。

さっきよりも会話がはっきりと聞こえてくる。

「なあ、さっきT高の制服来てる人に下で会ったんだけど。誰?」

「ああ、姉貴」

普段、姉貴なんて言わないのに、大の格好つけた答え方がおかしくて、一人で笑ってしまった。

「まじで?似てねぇじゃん。つうかすげえ、でかくねぇ?大の姉ちゃんに見えねーわ」

笑えなくなるのが、自分でもわかった。

「ああ、親父が違うから」と大の声が聞こえたあと、それをかき消すかのようにJPOPの歌が流れ出した。
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