みんな、ときどきひとり
家に帰ると、男ものの靴たちの姿はなくわたしは安心してリビングのドアを開けた。
いつも部屋に引きこもっている大が珍しくリビングのソファに座りテレビを観ていた。
リビングをぬけてキッチンからグラスとオレンジジュースをついで飲み干した。
「温泉行かなかったんだね」
キッチンから見える大の横顔に話しかけた。
「んー」と生返事。
「大も来ればいいのにって、お母さんすごい寂しそうな顔してたよ」
「ふうん」
テレビに夢中なのか、私の話に興味がないのか大の返事は変わらない。
「そういや、友達来てたね。でかいとか言われたの聞こえたんだけど」
力なくはははと笑うと、大が鋭い目つきで、わたしを見た。
「何、人の会話聞いてんだよ!」
わたしの渇いた笑いを打ち消すかのように冷たく怒鳴る。
「えっ?」
「お前、ババアにチクってるだろ?」
「は?何を?」
「俺の電話とかの会話」
「はあ?」
失笑してしまう。いくらわたしでも大の会話にそこまで興味はない。ましてや告げ口なんかするわけがない。
そんなわたしの態度に腹が立ったのか、更に声のボリュームを上げて、怒鳴りつける。テレビの音が聞こえなくなった。