みんな、ときどきひとり
「じゃなきゃ、わかんねーようなことあいつ言ってくんだよ!おめーだろ。昔っから、あいつに取り入りやがって!」
「だから、言ってないって」
「温泉なんか、お前が行きゃ良かったじゃねーかよ!」
その気迫に押され、言葉を飲みこんだ。
大は、バシッと壁にリモコンをたたき付けてリビングを出て行った。
何があったのかよくわからなかった。
だけど、大の怒りとは対照的にわたしの頭の中は自然と冷静さを保っていた。
きっと干渉する母のことだから、大の電話の話を盗み聞きしたり、携帯をチェックしたりすることがあったのかもしれない。
それをまた、ごちゃごちゃ言ってきて喧嘩になったことがあったのかもしれない。
この前だって、わたしに大が変なことしてないか詮索してきたし。
きっと、そうだろう。
それをわたしが母の味方をして告げ口していると思ったのか。
そうか。わたしは大から見ると母の機嫌を見て、気に入られるようとしている姉にしか見えてなかったんだ。
それはきっと、間違ってはいないと思う。
でも、違う。
わたしは母とは違うよ、大。
だって、母みたいにわたしはあんたのことを大切に思っていないから。
だから会話を盗み聞きするほどの興味もないんだよ。