みんな、ときどきひとり

その瞬間、背中に温かい感触が伝わった。

途端に、足元が崩れ落ちるかのようにバランスを失う。

右足がスライドして、段差を踏み外しそうだった。

階段の手すりにつかまったけれど、膝をぶつけてまたよろけてしまう。

それから手が離れてしまった。

ドスンドンドンと鈍い音を立てて、かろうじてお尻で階段をバウンドしながら何段か下りて、やっと止まった。

「いたたた」

お尻が尋常じゃなく痛い。

わたしのお尻は一体どうなってるんだろう。情けなくも、摩る。

血でも出てるかと思ったけれど、手の平を見ても何もなかった。

痛いだけのようで、とりあえず安心した。

今度はジンジンしてきて、お尻が腫れ上がったのではないかとも思えてきた。

ふくらはぎの裏は、階段で擦って、薄く皮が縦に剥けて血が少し出ていた。膝も痛む。

それより。

背中に感じたあの温度を思い出す。

背中に感じたもの。手だ。

わたし、押されたんだ。

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