みんな、ときどきひとり
なんで?
意味がわからずしも、今の状況をようやく理解した。
慌てて、後ろを振り返る。押した人がまだいるかもしれない。
階段の上には、あの子がわたしを見下ろすように立っていた。
言葉が出なかった。
わたしは、尻もちをついたお尻を起こし腕をついて立ち上がる。
あの子に向かって、言った。
「あなたが、押したの?」
まさか、そんなわけがないと目を凝らす。
だけど、どう見たってあの子だった。
なんでここにいるの?
「し……修くんに近づかないで下さい」
「なんのこと?」
手すりを掴みながら、階段を後ろに下りる。
あの子もそれに合わせるかのように、階段を下りてこっちにゆっくりと近寄ってくる。
「なんなの。急に現れて、彼女面して」
「彼女面?誰と?水城くん?そんなつもりないし。誤解だよ」
あの子の顔を見上げる。その表情は、怒りとも悲しみとも似つかなかった。
ただ、わたしのことだけを見つめているその顔は、今まで見たことのない人間の表情だった。