みんな、ときどきひとり
「なんでそれ持ってるの?」
「みみ見覚えありますよね?」
興奮しているのか、口調に安定性がなくなっていて、不気味だった。
「あるよ。拾ったの。誰が書いたかわからないから水城くんに渡すつもりで鞄にいれてたのになくなってたの。なんで持ってるの?」
「あなたが持ってるのが赦せなかった。ど……どんな気持ちで持ってるのか想像すると吐き気がしたから。だから取り返したの」
「人の鞄から取ったの?」
「あなただって、ひひ人の手紙盗んだじゃない?」
「だから。落ちてたの拾っただけだよ。それを水城くんに渡そうとして、探してたんだよ。読んでなんかいないよ」
話の意味がわからない。だけど、必死でわたしは弁解をした。だって、盗んでいないのは確かだから。
「シシシールが剥がれてたじゃない。読まなきゃ、わたしの名前なんかわからないじゃない」
「あれは、アクシデントがあって、剥がれちゃったの。読んでないし、あなたの名前も知らなかったよ。
あの日会うまで」
あの子が、最後の一段を下りた。踊り場で立ち止まるわたしを見ながら憎悪の念をあらわにするかのように睨んだ。