みんな、ときどきひとり
「ど……どうでもいいわ。どうでも。なんで、あなたなんだろう。わたしのほうが彼のこと理解してるのに。わたしのほうが好きなのに。なんであなたなんだろう」
「彼のこと、好きなの?」
わたしが言った質問に答えることなく、彼女はまた一歩ゆっくりと近づいてくる。
また突き落とそうとするかもしれない。
壁に背を向けて痛む足に力をいれる。
でも冷静になれば、あの子はわたしよりも小柄だ。
きっと160センチもないだろう。
わたしの高い身長なら、真正面からだったらうまく防げるはずだ。
落ち着けと自分に言い聞かせる。
そこで、ハッと気がついた。
わたしの鞄から手紙を盗んだということは携帯の番号だって盗める。
亮太とのツーショット写真だって水城くんにわたしに好きな人がいることを教えたくてしたのかもしれない。
死ねという張り紙を貼ったのだって、きっと……。
「もしかして、非通知の電話も、張り紙も写真を落としたのも……あなたがしたの?」
「ああああんたなんか…あんたなんか消えちゃえばいいのに」と呟いて、彼女は右手を振り上げた。
打たれると思った瞬間、目を閉じて奥歯を噛み締めた。
パシンッと音がする。頬が弾けたみたいだった。
振り上げたあの子の右手はわたしの頬を力強く引っぱたいたんだ。