みんな、ときどきひとり

『なんで、あなたなんだろう。わたしのほうが、彼のこと理解してるのに。わたしのほうが、好きなのに。なんであなたなんだろう』

彼女がさっき言った言葉が頭の中でこだました。

『わたしのほうが好きなのに』

誰がそんなこと決められるんだろう。

だけど、だけど。

わたしも、そう思っていた。

梨花よりわたしのほうが、亮太のことが好きって思ってた。

あのときのわたしも。

あの子を殴り返したわたしも。

きっと今も、こんな表情をしているのかもしれない。

さっきの彼女がもう一人のわたし。

まるで鏡の中の自分のように重なる。



「先輩!」

息を切らしながら、階段の踊り場で立ち止まった。少し長めの黒髪が乱れて揺れた。

「水城くん」

肩で息をする額には少し汗がじんわりとかいているのが見えた。水城くんにはなんか似合わないと思った。

「なんでここにいるの?」

ここに呼び出したのは水城くんじゃなかったから来れるはずもないのに。

なんでここにいるんだろう。

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