みんな、ときどきひとり
「頬、腫れちゃいましたね」
先に彼がそう口を開いた。
「あ。目立つ?まあ、戦利品だよね」
「また、意味のわからないことを」
水城くんは呆れた顔をしていた。
「電車、あっちじゃなかったんですか?」
「そうなんだけど。ちょっと、用事ができまして」
「そうですか」
何の用事かは訊いてこなかった。
目の前をここでは停車しない、快速電車が猛スピードで駆け抜けていく。その風が、わたし達の髪を揺らす。
「俺は、何を助けるんですかね」
「ふふふふ」
「不気味な笑い、なんなんですか?」
「少しだけ、一緒にいてくれたらそれでいい」
誰かが、今隣にいてくれることで、心が落ち着いていく。
ううん。誰かじゃなくて。それはたぶん、水城くんだからなんだろう。
何も聞かない彼の心の温度が心地良いのかもしれない。
なんでかわからないけど、そう思えた。
わたし、人に甘えてるのかな。今、それに気付いた。
それは、また彼女を傷つけることになるのかもしれないけど。
わたしだって、何も気にしないで誰かに寄りかかりたい日だってあるんだ。
甘えるって心地いいものなんだって思った。
今、間隔を空けて座っているのに、震える手を握りしめてくれた彼の温もりが、まだこの手に残っているみたいだった。