みんな、ときどきひとり

「あの、すみません」気まずくて謝ってしまう。

「名前、なんて言うんですか?」階段を下りながら、彼は唐突に訊いてきた。

「えっ?名前?田口ですけど」

「田口さん?下の名前は?」

「優菜」

「優菜ちゃんね。俺、手島賢斗(テジマケント)って言います。宜しくね」ニッと白い歯を見せて笑うとチョンマゲが揺れた。

「はぁ」

「優菜ちゃんって、モデルみたいだね?」

「はっ?」

「遠くから見ても目立つよね。すれ違う度、見てました」

「ていうか、でかいだけだし。見てたって」

急に何を言う初対面のわたしに。

しかもどう考えてもあなたのほうが目立つしモデルみたいですけど。

馬鹿にしてるのか、と思った。

一度立ち止まると、「彩音りかに似てる」と私の顔を見て言った。

「え?」

俺、あの子好きなんですよ、と言ってまた歩き出した。

「だから、本当は、前から可愛いなぁとか思って見てましたよ」

返事に困ると、3年2組の前に着いていた。彼は躊躇することなく教室に入り、みんなにジュースを配る。

周りにいた女の子が、突然の登場で戸惑うような声を出す。

この人のこと知っているのかな。嬉しそうな顔をしてる受け取る子が殆んどだ。

「ありがとね」と言うと、「じゃあ、お礼に今度遊んでくださいね」と言われた。

お礼にって頼んでいないんですけど。

恩着せがましい事を言ってくるけど、手伝ってくれたのは事実だし、悪い人ではないんだろうな。素直な子なんだろうと思い直した。

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