みんな、ときどきひとり

「ジュースを買いに行くだけなのに、男まで連れてくるなんてね」と彼が去ったあと、美和子がジュースを片手に呟く。

「あれ、2年の手嶋でしょ。軽くて有名な」

「また優菜は面倒臭い男を」と梨花は憐れむような顔をしている。

「確か、脚フェチらしいよ。モデル体型な子が好きみたい」

「ええっ。それって思い切り優菜の体目的じゃんっ!最低!優菜の美脚を」

「美脚なわけないし。ていうか。そういうんじゃないよ。てか、それどころじゃないよ」

「それどころじゃないって?」と不思議そうな顔をして梨花はわたしの顔を覗き込んだ。

それどころじゃないと言った自分の言葉に驚いてみたけれど。

ずっと考えていた。

水城くんは誰のことも好きにならないと言ったけどどうしてだろう。

なのに、水城くんは女の子とも仲良くしたりして。

なのに、水城くんは助けたいと言ったりして。

なのに、水城くんはわたしに気づいてくれなかったりして。

だけど、わたしは水城くんのこと、何も知らない。

わたしは自分の話ばかり聞いてもらって水城くんの話を何も聞いていない。

本当はどういう人なのか、何も知らなかった。
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