みんな、ときどきひとり

と、思っていたんだけど。

家に帰って、ご飯を食べて、テレビを見て笑って、ちょっと勉強して。

いつも通りのことをしてるのに集中できない。

湯船に浸かりながら、さっきのメールのことを考えていた。

手嶋くんからきた『明日遊びませんか?』のメール。

ああ……ほんとに免疫ないな。

彼氏どころか、デートに誘われた経験もないし、こんなことでそわそわしてしまうなんて。

ああ、馬鹿だな、ほんとに。

でも、軽いっていうし。ただ遊びたいだけかもしれないしね。

うん。きっとそうだ。

わたしが断ろうが遊ぼうがどっちでもいいんだ。

湯船に浮かべたアヒルのおもちゃのお腹を指で勢いよく押した。ピューと間の抜けた音とともに、中に入っていたお湯が顔に勢いよく命中した。

アヒルなんか嫌いだ。

「優菜!優菜!」

リビングあたりだろうか、わたしを呼ぶ母の声で熱を持っていたような頭の中が一気に冷めた。

「何よ」

濡れた髪と身体にタオルを巻いて、しぶしぶ母の声のするほうへと向かった。

リビングでは落ち着かずにうろうろしている母の姿があった。時計をチラリと見て、時間を気にしているようだ。

「何、その格好?はしたない」と、わたしを見るなり言う。呼んだのは、自分のくせに。

「はいはい、どうしたの?」

だけど、声に出しては言わなかった。
< 207 / 354 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop