みんな、ときどきひとり
「でも、なんか弟なのにお母さんみたいだね」
雨が、少し強くなってきた。水城くんが持っていた透明のビニール傘を開く。
「そうですか」と言いながら傘を持っていないわたしを自然と中にいれた。
「こういうときってお母さんとかに預けたりとかするんじゃない?」
「そうですね。でも旦那の実家、北海道だから遠くてこれないし。うちは母親いないんで」
「あっ、そうなんだ。そっかあ。じゃあ、そうなっちゃうか」
いないんだ。
そういえば母の日にプレゼントあげたことがないとか言ってたな。
男の子だからという理由じゃなかったんだ。
変なこと訊いてしまったことにまったく気がつかなかった。
自分の無神経さが嫌になる。まあ、わかりようもないことだったとも思うのだけど。
どうしていないのか気になったけれど、訊いていいことなのかわからず何も言えなかった。
水城くんもそのことについては話を広げようとはしない。
雨の音と2人の足音だけが、時間を繋いだ。
「あっ。そうだ家に電話しないと」と言いながらジーパンのポケットから携帯を取り出す。
発信キーを押すと、母はすぐに電話に出た。
「もしもし。ごめん。大、探したけど見つからなかった」
「大、帰ってきたわよ」
母の声はさっきでは考えられない程、落ち着いていた。