みんな、ときどきひとり
夜の雨音
わたしは母を捨てました。
弟に代わって、わたしが家出中。
といっても、親公認。わたしは捨てられそうになったので、とりあえず親を捨ててみた。
といっても、水城くんのお姉さんの家にいるわけであって。
わたしの家から半径200メートルくらいの距離であって、家出というには程遠いものだと思う。
それでもこれは家出なんだ。
「あの、すみません」
リビングから見える隣の和室で横になっていた水城くんのお姉さんに申しわけなくて謝った。
こんな夜分に弟の友達。しかも女の子が急に泊まりに来るなんてわたしでも非常識だと思う。
「気にしなくていいよ。修から事情聞いたし。泊っていきなよ。まあ、お母さんに連絡くらいしたほういいかもね」
「はい」とは言ったものの、携帯の充電はさっき切れてしまった。それに心配なんかしていないことくらい知ってる。
「ほのか、たまに泣いたりしてうるさいかもしれないからごめんね。奥の部屋使っていいし、ゆっくりしていってよ」と優しい笑顔で言った。
ほのかちゃんはベビーベッドで眠っていた。
お姉さんは「先に寝るね」と言うから襖を閉めた。
リビングに2人きりになる。
雨脚はさっきの帰り道よりも強くなっていた。
バケツを打つような音がして、窓を激しく叩きつけている。